【JAPiCO】 一般社団法人 日本個人情報管理協会



第8回 医療情報

医療情報はセンシティブな個人情報として管理が厳格である。医師は患者に関する情報を外部に話さない守秘義務を課せられていた。患者の病状や医療記録を記入したカルテは外部に持ち出して保管することは許されず、医療施設の中で保管されている。この延長線上で、医療カルテを電子化したカルテ情報も長い間、病院の中で管理することが義務付けられていた。この結果、カルテ情報を保管するサーバーも医療施設の中に設置しなければならず、システム運用やセキュリティ、人材確保、維持管理コストなど、大きな負担がかかってしまい、小規模な病院では電子カルテ移行などへのハードルが高かった。

こういうコスト負担に対する不満が強かったため、医療施設の共同運用のセンターならば医療施設の外部で情報処理・保管が認められ、さらに、医療関係者の共同施設でなくても厳重な情報管理がなされていれば、外部のデータセンターに委託できるように制度が改正されて、他の世界と同様のクラウド処理の道が開かれた。

ただ、この制度改革は2011年初めのことで、紙のカルテを電子化して、外部のクラウドで処理・保管する仕組みが提供されるには時間がかかる。2011年3月11日の東日本大震災には当然、間に合わなかった。医療施設は紙のカルテで患者の病状や治療内容を記録していたか電子情報にしていても施設内のサーバーに保管していた。いずれも津波被災地では記録が散逸して、患者の記録が失われたケースが多かった。

この反省から、クラウドに保管して、さらに遠隔地でバックアップを行う必要が叫ばれているが、実際に医療機関向けのクラウドサービスがどこまで提供されるようになったか、あるいは医療機関自身がクラウドの有用性に気が付いているか、本当のところは、よく分からない。いずれにしろ、医療情報は個人情報の中でも最もセンシティブな情報の1つである。クラウド事業者にも、厳格な情報管理を望みたい。

ただ、医療情報は、蓄積すれば、極めて価値の高い知識を創成する。一例を挙げれば、ある疾病に罹患する確率の高い遺伝子タイプとそうでない遺伝子タイプが区別できるようになれば、治療法や投薬の効果は飛躍的に向上するはずである。精度の高い創薬活動も推進できる。さまざまな点から、匿名化したデータをビッグデータとして活用して社会的に価値のある結果をもたらすことができる。製薬業界では開発コストの大幅な圧縮につながるので、経済価値も大きい。個人を特定できる情報を削除して提供すれば、ふつうは秘匿すべき個人情報として悪用されることはなさそうである。しかし、疾病が珍しい事例である場合、その症例が特定個人として識別され、他の情報がこの個人に紐づけられて芋づる式に秘匿したい個人情報まで露出してしまう危険は否めない。

特に医療情報の場合は個人情報の取り扱いに配慮する必要がある。


【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization