第14回 「個人情報」は相対的権利
ビッグデータがなぜ、にわかに注目されるようになったのだろうか。もちろん、情報技術の急速な進展の結果である。まず、爆発的な情報の発生だが、これは情報を発信する技術とこれを収集する技術の双方の進展が相まっている。ネット通販などの電子取引やメール、SNS(ツイッターやフェースブック、オンラインゲーム、LINEなど続々とサービスが充実している)など、人や企業から膨大なデータが生成されている。街頭や駅構内、小売店内、エレベーターなど各所に設置された防犯カメラからも個人を特定できる映像データが収集され、保管されている。個人にかかわる情報は、正確な時間と位置が個人のデータとして的確に把握され、収集できる状態になっている。人間の情報の次に、「物」の情報だ。原材料や部品、組み立て工程、輸送、在庫、店舗配置、販売などの生産から流通に至る一連の動きはSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)やトレーサビリティ(追跡)システムによって把握されているが、これはセンサーによってデータが収集され、ネットワークを通じて統合的に管理する仕組みができている。
そのほか、気象関係のデータや自動車や電車の運行などの交通データ、農作業や農産物の生育情報、人間の健康データや医療関連のデータなど、刻々と膨大なデータが発生し、サーバーやデータベースに蓄積されて行く。
データを収集する能力に加えて、情報を蓄積する記憶装置の急速な性能の向上やコンピューターの処理能力の高速化、さらに膨大なデータを効果的、高速に分析できるソフトウェアの登場によって膨大なデータの中から意味のある情報や知見を抽出できるようになった。
この結果、膨大なデータから社会的価値のある知見や情報を抽出することができるようになった。従来とは違って膨大なデータを集める動機が生まれている。そこで、これを「ビッグデータ」と呼んで「価値ある資産」としての意味を強調した。
以前から、企業では、自社で収集したデータを分析してマーケティング情報として商品開発や生産・流通在庫管理の最適化などに利用してきているが、「ビッグデータ」では、自社のデータだけではなく、他の企業や機関が集めたデータと統合することで、さらに深い知見が得られる可能性が高くなってきた。その中に多数の個人に関わるデータがある。自社で集めた個人情報については事前に了承を得ているので問題はないが、他の企業や機関に提供するとなれば、個人情報に該当しない情報だけだとしても収集する際に了解を得ていないので、取扱い上の問題が起きてくる。
日本国内では、交通系電子乗車券・電子マネーのJRのスイカの情報を匿名化措置を講じたうえで日立製作所がさらに第三者の企業や機関に提供する、というサービスを発表した際に、一部のユーザーやマスコミから「了承を得ていないデータの利用方法」として批判を受けて、サービスを延期した。しかし、その後はNTTドコモがユーザーデータを他の企業や機関で利用できるように提供して、これは手続きを細かく行って問題をクリアしたようである。ただ、日本国内でデータの保管や処理をしている外国系のクラウドサービスは日本の個人情報保護法の適用を受けない。日本企業は、日本の大企業がもつビッグデータでは個人情報保護法の問題が不明確なために、このままではどんどん、外国のサービスを利用するようになってしまう。
ビッグデータはこれまで膨大に蓄積した各種のデータを経済価値に替えて顕在化させ、経済活性化させる重要な資源である。この資源を活用して大きな産業を生み出すことができるチャンスがある。個人情報を適正に管理できるように、明確な運用基準を早く定めてほしいというのは、情報産業の国際競争力を強化する目的である。
過剰な個人情報保護の日本社会の風潮は、徒に、日本の衰退を招くだけである。適正な保護の仕組みを作って、活用の道を早く確立してほしい。
【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization
そのほか、気象関係のデータや自動車や電車の運行などの交通データ、農作業や農産物の生育情報、人間の健康データや医療関連のデータなど、刻々と膨大なデータが発生し、サーバーやデータベースに蓄積されて行く。
データを収集する能力に加えて、情報を蓄積する記憶装置の急速な性能の向上やコンピューターの処理能力の高速化、さらに膨大なデータを効果的、高速に分析できるソフトウェアの登場によって膨大なデータの中から意味のある情報や知見を抽出できるようになった。
この結果、膨大なデータから社会的価値のある知見や情報を抽出することができるようになった。従来とは違って膨大なデータを集める動機が生まれている。そこで、これを「ビッグデータ」と呼んで「価値ある資産」としての意味を強調した。
以前から、企業では、自社で収集したデータを分析してマーケティング情報として商品開発や生産・流通在庫管理の最適化などに利用してきているが、「ビッグデータ」では、自社のデータだけではなく、他の企業や機関が集めたデータと統合することで、さらに深い知見が得られる可能性が高くなってきた。その中に多数の個人に関わるデータがある。自社で集めた個人情報については事前に了承を得ているので問題はないが、他の企業や機関に提供するとなれば、個人情報に該当しない情報だけだとしても収集する際に了解を得ていないので、取扱い上の問題が起きてくる。
日本国内では、交通系電子乗車券・電子マネーのJRのスイカの情報を匿名化措置を講じたうえで日立製作所がさらに第三者の企業や機関に提供する、というサービスを発表した際に、一部のユーザーやマスコミから「了承を得ていないデータの利用方法」として批判を受けて、サービスを延期した。しかし、その後はNTTドコモがユーザーデータを他の企業や機関で利用できるように提供して、これは手続きを細かく行って問題をクリアしたようである。ただ、日本国内でデータの保管や処理をしている外国系のクラウドサービスは日本の個人情報保護法の適用を受けない。日本企業は、日本の大企業がもつビッグデータでは個人情報保護法の問題が不明確なために、このままではどんどん、外国のサービスを利用するようになってしまう。
ビッグデータはこれまで膨大に蓄積した各種のデータを経済価値に替えて顕在化させ、経済活性化させる重要な資源である。この資源を活用して大きな産業を生み出すことができるチャンスがある。個人情報を適正に管理できるように、明確な運用基準を早く定めてほしいというのは、情報産業の国際競争力を強化する目的である。
過剰な個人情報保護の日本社会の風潮は、徒に、日本の衰退を招くだけである。適正な保護の仕組みを作って、活用の道を早く確立してほしい。
【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization