第16回 行政情報のオープンデータ化
現在の情報社会の重要なキーワードの1つが「オープンデータ」である。文字通りデータのオープン化という意味だが、問題は「オープン」の中身である。最も原理主義的には、収集し、保管しているプログラムやデータについて、著作権や特許、編集権などに制約されずに使用でき、再加工、再編集、再掲載できるような形式でだれでもが入手できる、というのが「オープン」で、「オープンデータ」はこのうちデータについてこの考え方を適用したものである。ソフトウェアについては「オープンソフトウェア」が同じ文脈で表現されている。
さて、日本で現在「オープンデータ」と呼ばれるのは通常、「行政のオープンデータ」の意味である。ICTを基礎にして行政の透明化を進めるべきだという「オープンガバメント」が6、7年前から欧米で主張され始めた。特に納税者には税金の使い道を知る権利がある、ということで、公共機関の支出データを公開すべきだという主張が優勢となった。これをきっかけに行政データ全般に透明化が必要だということで、欧州各国では行政データのオープン化を進める施策が推進されている。最初は行政データを知る権利が中心で「オープンアクセス」だったが、開示されたデータを分析するために編集・加工できる形式にするように要求が深まった。
日本では「行政の透明化」の要求が行われるのとほぼ同時に「電子的に再利用可能な形式」でデータを公表することが議論されてきた。単にだれでもが行政の監視を行えるようにする、というだけではなく、行政機関では保有データを利用して経済価値に転換できることにも力点が置かれるようになっている。まず2012年に民主党政権時代のIT戦略本部が「電子行政オープンデータ戦略に関する提言」をまとめて大きく前進した。その後、自民党政権に代わった2013年のIT総合戦略本部で、「電子行政オープンデータ戦略」が発表され、政府の重点政略の位置づけが明確になった。
特に、日本の経済成長戦略の柱の1つに「オープンデータ」を掲げたことが行政データのオープン化への動きに拍車をかけた。行政に蓄積されている各種のデータにつき、@インターネットから簡単にアクセスでき、かつ使いやすく、加工しやすい形式であること、A公開されたデータは著作権などの排他的な権利に拘束されずに、無料で再利用・再配布可能で、他のデータと組み合わせることもできる、B営利・非営利を問わず、だれでもどんな方法で活用しても良い――というのが原則である。
経済成長戦略の面からは、民間事業者のアイデアで経済価値のある知見を導き出し、経営やサービス、ビジネスに活用することを期待している。行政が保有しているデータは行政自身で経済価値のあるビジネスに転換することは難しい。マーケットについての知識も不足しているし、もともとビジネスを開発し、発展させるノウハウもない。ここは民間の出番である。
行政が保有するデータで経済価値に直結するのは気象関連のデータがすぐに思いつく。農業関連では農地の土壌データや地球観測衛星から集めた各種の環境データ、防災面から河川や地形データ、土壌の強度のデータなども不動産業者や土木・建築会社が利用できるだろう。観光業界にも活用できるデータはたくさんある。
ただ、問題はこれらのデータは個人データと結びつくケースが多い。土地の軟弱度のデータでは、防災上の役に立つ半面、軟弱地盤や洪水被害の可能性の高い土地だと判定されるデータの公表によって不動産価値が下落する可能性がある。こうしたデータを公表することで不利益になる住民からの反発がある。当該の住民としては知られたくない情報である。
しかし、この情報が開示されていなければ、誤ってこの不動産を高値で購入する危険がある。新たな購入者の不利益となる。現在の不動産所有者の利益を守るか、新たな購入者の利益を守るか、という問題になるわけだが、ここは情報を開示するのが公平だろう。
オープンデータの事例が進行するにつれて、個人データとの衝突が増加するだろう。判断に難しい事例が増えてくるので、そのたびごとに、議論を深めてゆきたい。
【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization
さて、日本で現在「オープンデータ」と呼ばれるのは通常、「行政のオープンデータ」の意味である。ICTを基礎にして行政の透明化を進めるべきだという「オープンガバメント」が6、7年前から欧米で主張され始めた。特に納税者には税金の使い道を知る権利がある、ということで、公共機関の支出データを公開すべきだという主張が優勢となった。これをきっかけに行政データ全般に透明化が必要だということで、欧州各国では行政データのオープン化を進める施策が推進されている。最初は行政データを知る権利が中心で「オープンアクセス」だったが、開示されたデータを分析するために編集・加工できる形式にするように要求が深まった。
日本では「行政の透明化」の要求が行われるのとほぼ同時に「電子的に再利用可能な形式」でデータを公表することが議論されてきた。単にだれでもが行政の監視を行えるようにする、というだけではなく、行政機関では保有データを利用して経済価値に転換できることにも力点が置かれるようになっている。まず2012年に民主党政権時代のIT戦略本部が「電子行政オープンデータ戦略に関する提言」をまとめて大きく前進した。その後、自民党政権に代わった2013年のIT総合戦略本部で、「電子行政オープンデータ戦略」が発表され、政府の重点政略の位置づけが明確になった。
特に、日本の経済成長戦略の柱の1つに「オープンデータ」を掲げたことが行政データのオープン化への動きに拍車をかけた。行政に蓄積されている各種のデータにつき、@インターネットから簡単にアクセスでき、かつ使いやすく、加工しやすい形式であること、A公開されたデータは著作権などの排他的な権利に拘束されずに、無料で再利用・再配布可能で、他のデータと組み合わせることもできる、B営利・非営利を問わず、だれでもどんな方法で活用しても良い――というのが原則である。
経済成長戦略の面からは、民間事業者のアイデアで経済価値のある知見を導き出し、経営やサービス、ビジネスに活用することを期待している。行政が保有しているデータは行政自身で経済価値のあるビジネスに転換することは難しい。マーケットについての知識も不足しているし、もともとビジネスを開発し、発展させるノウハウもない。ここは民間の出番である。
行政が保有するデータで経済価値に直結するのは気象関連のデータがすぐに思いつく。農業関連では農地の土壌データや地球観測衛星から集めた各種の環境データ、防災面から河川や地形データ、土壌の強度のデータなども不動産業者や土木・建築会社が利用できるだろう。観光業界にも活用できるデータはたくさんある。
ただ、問題はこれらのデータは個人データと結びつくケースが多い。土地の軟弱度のデータでは、防災上の役に立つ半面、軟弱地盤や洪水被害の可能性の高い土地だと判定されるデータの公表によって不動産価値が下落する可能性がある。こうしたデータを公表することで不利益になる住民からの反発がある。当該の住民としては知られたくない情報である。
しかし、この情報が開示されていなければ、誤ってこの不動産を高値で購入する危険がある。新たな購入者の不利益となる。現在の不動産所有者の利益を守るか、新たな購入者の利益を守るか、という問題になるわけだが、ここは情報を開示するのが公平だろう。
オープンデータの事例が進行するにつれて、個人データとの衝突が増加するだろう。判断に難しい事例が増えてくるので、そのたびごとに、議論を深めてゆきたい。
【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization