第28回 名誉棄損
「名誉棄損」は、公然と事実を明らかにして人の名誉を著しく傷つけることである。事実であれば問題ないのではないか、と主張する人もいるがそれは誤りである。名誉棄損に基づく刑法の「名誉棄損罪」では、「その事実の有無を問わず」3年以下の懲役または禁錮もしくは50万円以下の罰金に処することを定めている。「事実の有無にかかわらない」というのが特徴だ。虚偽のことを言いふらして名誉を傷つけるのはもちろん、それが事実であっても、名誉を著しく汚すものであれば処罰の対象になる。この罪は、名誉を傷つけられたと思う人が訴えて成立する親告罪である。
サイバースペースには「掲示板」という公然と文章を発表する道具がある。しかも、一度書き込んだものを不特定多数の第3者がコピーしてその文章を拡散させてゆく。誰かの名誉を傷つける文章を書き込んだらその瞬間から、その内容は書き込んだ人のコントロール下から解き放たれて広がってゆく危険がある。対象となった人物が名誉を傷つけられたと感じて告発すれば、「事実の有無を問わず」名誉棄損の不法行為の罪が成立する可能性が出てくる。個人情報の保護だけでなく、個人の人格を傷つけるような名誉棄損の不法行為を犯さないように啓蒙するのも個人情報管理士として重要な役割である。
事実の有無を問わないのには理由がある。
もし、事実でないなら罰せられないなら、それが事実かどうかの認定のプロセスで被害者のプライバシーや名誉がさらに侵害される危険があるからだ。被害者にさらに大きな苦痛を与えては何もならない。事実の有無を問わないならば、事実関係を議論しなくて済むので、被害者の告訴は容易になる。裁判の議論も簡明で、短期間で決着する。これによって個人の名誉を守る仕組みが成立する。
サイバー空間では、掲示板などに書き込み、公然と他人の名誉を傷つける言葉が飛び交っている。その中には名誉棄損に当たる内容も極めて多い。
それが見逃されているのは容認しているからではない。親告罪であるため、被害者が告発するには相当の労力が必要になるからだ。匿名で記述されるため、書き込みをした人物を特定することが極めて困難だ。個人が掲示板サービス業者やプロバイダーに書き込んだユーザーの名前を開示するように要請してもまず、相手にしてもらうのは大変だ。裁判所に訴え出て、サービス事業者やプロバイダーに書き込みユーザーを開示してもらう命令を出してもらわなければいけない。
裁判所に訴えるためには、名誉棄損の被害の立証をしなければならないので、書き込まれた内容を記録しておかなければならない。さらに、これを引用して幅広く拡散した状況を追いかけて収集し、証拠として記録しておかなければならない。当人を特定できたら、その上で、名誉棄損についての本裁判になる。被害者が警察に訴えれば警察が乗り出してくれるというような案件ではないので、被害者自身の粘り強い作業が必要になる。そこまでの根気が続かないので、通常は野放しになっているだけである。
皆がこの程度の悪口は言っているので不法ではないだろうと思うと大間違いである。まな板に載せて揶揄したつもりが「名誉棄損」と意を決して立てば、書き込みをした人物は多額の損害賠償と、場合によっては懲役や禁錮も覚悟しなければならない。
ただし、公共的利益を守るために必要な場合には、事実の公然化(摘示)が名誉棄損にならないケースがある。
日本国憲法は言論の自由、表現の自由を保障している。名誉棄損を無原則に絶対化すると、この言論、表現の自由という権利と衝突する。2つの権利をどこで調和させるか。
2つの権利の調和を図るため「事実の証明に関する規定」が設けられた。たとえ名誉が毀損されるような場合でも、正当な理由がある場合に限り、真実の言論を保護し名誉毀損罪は成立しない、とするものである。正当な理由とは以下のような条件を満たすものである。名誉を毀損する行為が、@公共の利害に関する事実であり(事実の公共性)、Aそれが専ら公益を図る目的(目的の公益性)を持っていて,B摘示された事実が真実である証明がなされた(事実の真実性)の3つである。3要件がそろった場合には、不法行為とされない。「公益のために真実を摘示する」言論、表現の自由うと,「名誉・プライバシーの保護」との間のバランスをとっている。
【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization
サイバースペースには「掲示板」という公然と文章を発表する道具がある。しかも、一度書き込んだものを不特定多数の第3者がコピーしてその文章を拡散させてゆく。誰かの名誉を傷つける文章を書き込んだらその瞬間から、その内容は書き込んだ人のコントロール下から解き放たれて広がってゆく危険がある。対象となった人物が名誉を傷つけられたと感じて告発すれば、「事実の有無を問わず」名誉棄損の不法行為の罪が成立する可能性が出てくる。個人情報の保護だけでなく、個人の人格を傷つけるような名誉棄損の不法行為を犯さないように啓蒙するのも個人情報管理士として重要な役割である。
事実の有無を問わないのには理由がある。
もし、事実でないなら罰せられないなら、それが事実かどうかの認定のプロセスで被害者のプライバシーや名誉がさらに侵害される危険があるからだ。被害者にさらに大きな苦痛を与えては何もならない。事実の有無を問わないならば、事実関係を議論しなくて済むので、被害者の告訴は容易になる。裁判の議論も簡明で、短期間で決着する。これによって個人の名誉を守る仕組みが成立する。
サイバー空間では、掲示板などに書き込み、公然と他人の名誉を傷つける言葉が飛び交っている。その中には名誉棄損に当たる内容も極めて多い。
それが見逃されているのは容認しているからではない。親告罪であるため、被害者が告発するには相当の労力が必要になるからだ。匿名で記述されるため、書き込みをした人物を特定することが極めて困難だ。個人が掲示板サービス業者やプロバイダーに書き込んだユーザーの名前を開示するように要請してもまず、相手にしてもらうのは大変だ。裁判所に訴え出て、サービス事業者やプロバイダーに書き込みユーザーを開示してもらう命令を出してもらわなければいけない。
裁判所に訴えるためには、名誉棄損の被害の立証をしなければならないので、書き込まれた内容を記録しておかなければならない。さらに、これを引用して幅広く拡散した状況を追いかけて収集し、証拠として記録しておかなければならない。当人を特定できたら、その上で、名誉棄損についての本裁判になる。被害者が警察に訴えれば警察が乗り出してくれるというような案件ではないので、被害者自身の粘り強い作業が必要になる。そこまでの根気が続かないので、通常は野放しになっているだけである。
皆がこの程度の悪口は言っているので不法ではないだろうと思うと大間違いである。まな板に載せて揶揄したつもりが「名誉棄損」と意を決して立てば、書き込みをした人物は多額の損害賠償と、場合によっては懲役や禁錮も覚悟しなければならない。
ただし、公共的利益を守るために必要な場合には、事実の公然化(摘示)が名誉棄損にならないケースがある。
日本国憲法は言論の自由、表現の自由を保障している。名誉棄損を無原則に絶対化すると、この言論、表現の自由という権利と衝突する。2つの権利をどこで調和させるか。
2つの権利の調和を図るため「事実の証明に関する規定」が設けられた。たとえ名誉が毀損されるような場合でも、正当な理由がある場合に限り、真実の言論を保護し名誉毀損罪は成立しない、とするものである。正当な理由とは以下のような条件を満たすものである。名誉を毀損する行為が、@公共の利害に関する事実であり(事実の公共性)、Aそれが専ら公益を図る目的(目的の公益性)を持っていて,B摘示された事実が真実である証明がなされた(事実の真実性)の3つである。3要件がそろった場合には、不法行為とされない。「公益のために真実を摘示する」言論、表現の自由うと,「名誉・プライバシーの保護」との間のバランスをとっている。
【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization