【JAPiCO】 一般社団法人 日本個人情報管理協会



第33回 監視カメラと防犯カメラ

かつては「監視カメラ」の不当性の議論が盛んに交わされた。
議論が最も活発になったのは犯罪多発地帯だった新宿の繁華街で商店会が「防犯カメラ」を各所に設置することになった際である。「プライバシーの侵害だ」と抗議する声が一斉に噴出した。しかし、青年経営者たちから成る商店会側も粘り強く町の安全のために必要であることを主張し、反対をおしきって運用を開始した。

その結果は明白である。「監視カメラはプライバシー侵害」という主張を展開していた一部の報道機関は「変化なし」という記事を一時期、掲載していたが、実態は異なっていて、犯罪は減り、顕著な効果が見られた。この結果を得て新宿地区での設置地域を拡大し、本格的な防犯カメラ時代に突入したのである。

新宿での成功に刺激を受けて、全国の繁華街で防犯カメラを設置する動きが広がった。もちろん、こうした動きをプライバシーの危機として警鐘を鳴らす声は依然として強かったが、住民や来訪者の安全のためにカメラ設置を求める声の方が勢いを増して、全国のほとんどの繁華街は防犯カメラを設置するに至っている。

繁華街だけではない。防犯カメラ設置の要求は、住宅街の街角へと設置地域を拡大し、夜間の人通りの少ない地域にも設置する動きは広がった。住宅ではマンションの各階やレベーターの中にも防犯カメラの設置は不可欠と言えるほどに普及した。スーパーやコンビニは店舗内だけでなく、店舗の周囲や駐車場にも設置されるようになった。

反対者の声が小さくなるきっかけになったのは、防犯カメラの映像が捜査の決め手になって犯罪者検挙のスピードが上がったからである。特に子供の拉致、誘拐の事犯である。犯罪の予防にはならなかったが、行方不明になった子供の映像がカメラに残っていて、その子を連れて行く人間の映像もはっきり確認でき、子供の遺体の確認や犯人逮捕が短時間で完了するケースが増えた。住民が長期間、不安なままに置かれる状況を回避することができた。

防犯カメラは事件が起きた後にしか機能しないことが多いが、それでは本当の意味での防犯にはならない。しかし、防犯カメラの存在を意識すると防犯のために、もっとカメラを増やすべきだという要求が強まったのである。防犯カメラがある場所では犯罪を起こしにくい。防犯カメラあるということで犯罪抑止の効果がある。カメラ設置区域が多くなれば、犯罪が起こしにくい安全地帯が増えるという寸法である。

もちろん、防犯カメラは原則的に人が常時見つめるためのものではない。建物施設の警備のためのカメラは、リアルタイムで監視し、不審人物の侵入を発見するためのものだが、不特定多数の人間が通る街中のカメラは自動的に撮影しているだけである。機械は見ているが人間は見ていない。撮影した映像は一定期間、保管されるが、その間に近隣で事件が起きなければ不要な映像として消去される。善良な国民の日常が厳しく監視下に置かれるわけではないのである。この記録された映像にアクセスするには厳格なルールを守るように仕組み作りをすることが必要なのである。

さらに、国際的なテロ事件が頻発するようになってきた。どこからいつ、日常生活の中に残虐なテロが突撃して来るか分からない。そうした犯罪者の顔の画像情報が共有されていれば、犯罪を未然に防ぐことに防犯カメラが機能するようになるかもしれない。

こういう状況になると、防犯カメラは、安全、安心な社会を求める国民にとって、それを保障するシステムになる。「防犯カメラ」は犯罪を行おうとする者にとっては自由を妨げる邪魔な存在だが、そういう犯罪予備軍の便宜を図る仕組みを社会が準備をする必要はない。犯罪者が実行できにくい環境を作ることが肝心である。

しかし、その防犯カメラの運用が健全な生活を送る大多数の国民のプライバシーを侵すことになっていないかは、大いに注意しておく必要がある。防犯の目的を逸脱した「監視カメラ」になっていないか。それを監視する「監視カメラ監視のための第3者機関を創設して、その厳格な運用を保証する仕組みを作るべきだろう。


【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization