【JAPiCO】 一般社団法人 日本個人情報管理協会



第37回 名簿業者

休日に家で休んでいると、頻繁にセールスの電話がかかってくる。投機商品や投資用のワンルームマンションなどの購入の勧めである。墓地の購入の勧誘もある。一体、どうやって筆者の情報を知るのだろう。友人の中には、休日の自宅での静謐を破る不当な行為で人権侵害だと怒る向きも多い。その情報を提供しているのは名簿業者であると知って、「違法だから取り締まれ」と息巻く知人もいる。

しかし、名簿業者は、適正な条件を備え、適正な活動を行っている限り違法ではない。実際に氏名、住所、電話番号、職業などのような個人情報を整理して、検索しやすいようにして名簿を提供する事業者が数多く存在する。そうした事業者で、利用をアピールする広告もある。また、そう多いケースではないが、受け取って役に立つ情報もある。社会に一定の価値を提供するサービスの側面もある。一概に排除するのは早計だろう。

まず、ダイレクトメールや電話セールスのアプローチ一般について考えてみると、名簿業者によるものでないものがある。インターネットの各種サイトへの登録や、テレビショッピング、カタログ通信販売、ネット通販などの申し込みの際に、興味をもつジャンルなどのアンケートに答え、今後、情報提供を希望する、という項目にチェックをすると定期的にメールなどで情報提供がされる。テレビショッピングの電話によるアフターフォローもある。これはインターネットのサービス会社や通販会社が自社の顧客を相手にした正常な追加サービスである。

休日などに静謐を脅かして問題になるのは、そうした心当たりのない業者からのダイレクトメールや電話セールスである。これは名簿業者から提供された情報を元にマーケティング活動を行っている。

名簿業者は、公開された名簿の入手と販売については認められている。学校の同窓会が発行する名簿や県人会名簿などのうち、公開が合意されている名簿類意である。近年、こうした名簿でも「関係者外秘」のものも多くなって、該当する名簿は減少している。また、本人から第三者への提供の同意を得て情報を集めた名簿は、一定の条件をクリアして第三者に販売することができる。その際の条件として不可欠なのは、本人からの消去の要請があった場合には名簿からの消去を検討することである。当初、同意があっても、その後、事情が変わって消去を希望するケースもある。この様な場合には、要求理由を確認し、これらの対応を検討しなければならない。

公開されている名簿の取り扱いの規制が緩いのは、原則として、その名簿作成過程で多様な利用が行われることを本人が知ったうえで公開に同意しているとみなされるからと考えられる。また、名簿事業者は、情報収集過程で、@第三者への提供を利用目的とすること、A第三者に提供される個人データの項目、B第三者への提供の手段または方法、C本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者提供を停止すること――などを本人に通知するか、または、本人が容易に知り得る状態に置くことで、第三者への名簿提供が合法とされている。

「本人が容易に知り得る状態」というのが微妙だが、これは利用される側も、ある程度、自分の情報がどのように公開されているか、時々、チェックする義務が生じていると考えることができる。コンピューターウイルスやサイバー攻撃から自分の情報機器を守るのがユーザーの責任であるのと同様に、自分に関わる情報も責任の一半がユーザー側に課せられる。通常に生活する一般市民も、高度情報社会においては安全を確保するために一定のリテラシーを持つように迫られる、と言える。

「本人が容易に知り得る状態」について、経済産業分野のガイドラインでは、「ウェブ画面中のトップページから1回程度の操作で到達できる場所への掲載等が継続的に行われていること」「事務所の窓口等への掲示、備付け等が継続的に行われていること」「広く頒布されている定期刊行物への定期的掲載を行っていること」「電子商取引において、商品を紹介するウェブ画面にリンク先を継続的に掲示すること」などが挙げられている。ユーザー側ではこうした告知に配慮することも重要になる。

こうした合法的な手段によって収集され、提供される名簿以外では、不正な手段により個人情報を取得した可能性がある。これを購入して利用する企業も、「違法性を知らなかった」では済まされないので、名簿業者の名簿入手手段、経路に違法性がないことを確認する必要がある。特に、明らかに違法に持ち込まれた名簿を取り扱う事業者は個人情報保護法違反で、適正に入手した名簿であることの確認を怠った購入企業も同法違反の疑いをもたれる可能性が高くなる。

適正な取得方法による個人情報であるかどうかが明確でない場合には、リスク管理の観点からこれらの個人情報を取り扱わないことが望ましい。


【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization