第47回 顧客情報と顧客データ

「顧客情報」と「顧客データ」と類似の二つの用語がある。ある場合には同じ意味で用いられるケースもあるし、別のケースでは違う意味で用いられる。通常は同じ意味で使用されることが多いので、いつも同じ意味だと混同している向きもあるが、法律などで規制する際には、厳密に分けて理解しておいた方がよいだろう。

新聞紙面を見ると、人によっては興味も意味も持たないと思われるページがある。株式や商品の価格を収録した「相場表」である。たとえば、株式相場表だが、株を持っていない読者にとっては、ただの「数字の羅列」で、格別に意味を持たない。しかし、投資家は、毎日、持ち株の株価の変化に目を通し、関連のある株式の数字、株価が変動した企業などに目を留めて、今後の投資行動の参考にする。

「データ」は単なる固有名詞や数字の羅列のことである。人によって意味があることもないこともある。ある人にとって、それが次の行動を引き起こすデータであれば、それを「情報」と呼ぶ。もちろん、その数字が次の行動を引き起こすのは、当の数字だけが単独で作用するのではない。情報として受け止める人が事前に集めている他のデータや周辺知識、本人の今後に対する予測やビジョン、あるいは人生観にもかかわるさまざまなデータや情報、知識が組み合わさって次の行動に結びつくのである。

そのもろもろの条件がない人間にとって、数字の羅列は無意味なものである。

「顧客情報」も全く同じである。それを利用できる他の条件を備えている場合に、それは「情報」である。統計処理して、マーケティング活動に利用できる人や企業にとっては単なる「データ」ではなく「情報」である。

これを盗み出す犯罪者にとっては、自身で利用できる「情報」ではなく、意味を持たない「データ」であることが多い。闇の市場で流通し、他のデータや情報と組み合わせて利用できる別の犯罪者に渡って、ようやく「情報」になる。

もちろん、犯罪者集団だけでなく、企業や産業界にとっては、ビジネスを発展させるために、これらのデータは大きな価値をもつ。新しい経済価値を生み出す「一大資源」である。より魅力ある商品を開発し、顧客サービスを向上させる貴重な情報になる。企業自身が顧客から集めたデータだけでなく、他の企業が集めたデータを組み合わせて加工すると、顧客サービスの品質を飛躍的に向上させる「情報」に転換させることができる。

この「宝物」が犯罪者集団に悪用されれば、顧客に大きな被害を与える危険な「毒物」に変わってしまう。「顧客情報」「顧客データ」をどのように保護してゆくのか。多くの経費を支出してでも、そのための仕組みづくりが重要だ。


【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization