第51回 監視カメラと防犯カメラの現状

監視カメラは「防犯カメラ」として異常時に機能する道具から、日常時にも、マーケティングデータ収集のための道具へと広がりつつある。単に顔や行動を撮影、記録するだけでなく、上記のマイルストーンズ社のように、一部をクローズアップして、顔の表情から性別や年齢などを判断して、場合によっては学生かサラリーマンか、主婦かOLか、など、おおよその職業も見当をつけられるケースもある。これを他のデータと組み合わせてビッグデータ解析することで、意味のあるマーケティング情報に加工する。

しかし、実は、機能が向上してきたことによって、犯罪捜査などや防犯のための道具としてもきわめて重要なものになりつつある。その機能というのは、顔などの表情が高精細にとらえられると、他の画像データと組み合わせて、手配中の犯人や監視下に置かれている人物の行動を追いかけることが可能になる。現在は、フェースブックやブログなど事実上、公開されているインターネットのサービスで、個人の顔写真などの画像を取得することができるので、これとマッチングさせる高速の処理技術が可能ならば、監視カメラや防犯カメラの画像は、個人の行動を追跡する道具となる。しかし、これは社会に新たな不安を広げることになる。こうした技術が完全ではないために、顔が似ているだけで、別人が捜査当局に追い回される暗黒社会となるのではないか。無実の人が突然、覚えのない罪状で拘束される危険な社会になることを防げるのか。一方で、テロや麻薬犯罪者、暴力犯罪者などの社会を危険に陥れる犯罪者の除去に役立つ効用は確かだが、他方で、冤罪の頻発やそのトラブルに巻き込まれる危険におびえる社会的不安も耐え難いものになってしまうかもしれない。そのバランスをどこで取ればよいのか。

完全な解答はないが、その均衡を求める努力はさまざまになされている。

地域を犯罪から守る喫緊の課題を抱える自治体では、防犯カメラの設置を推進しているケースが増えているが、たとえば、兵庫県では、こうした動きを推進するとともに、その濫用がプライバシーを侵害しないために、ガイドラインを設け、公表している。防犯カメラメーカーが組織する団体などでもガイドラインを作成しているが、自治体のガイドラインの方が詳細にわたっているので、ここでは、平成21年に兵庫県が発表した指針を紹介する。

この指針では、「防犯カメラの有用性とプライバシーの保護との調和を図るために最低限配慮すべき具体的な内容を取りまとめ(る)」とその目的を明らかにしたうえで、
@防犯カメラの撮影区域は、必要最小限とし、防犯カメラが設置されている旨及び設置者の名称・連絡先を表示する
A防犯カメラにより撮影された映像や記録媒体は、次の事項に留意して適正に管理する
・映像の加工や不必要な複写は行わない
・施錠可能な保管庫等に保管し、盗難及び散逸の防止に努める
・関係者以外の立入や外部への持ち出しを禁止する
・保管期間は必要最小限とする(1か月以内が望ましい)
・保管期間経過後は、速やかに映像を消去する
B第三者への提供を以下の例外を除いて禁止する
・映像から識別される特定の個人(本人)の同意がある
・法令に基づく提出命令
・捜査機関から犯罪捜査目的での提出命令
・個人の生命、身体または財産の保護のため緊急かつやむを得ない場合
C運用責任者は、県民等から防犯カメラの運用に関して苦情を羽化得た時には速やかに対応し、適切な措置を講じる
―――などの指針を提示している。
また、被写体となっていると思われる個人からの取り扱いについての要求があった場合の対応基準などについても予め公表しておく必要がある。
「プライバシー権」については、絶対的な人格権として主張する説もあるが、現在の法制度の中では、「公共の利益に反しない限り」という条件付きの権利と解釈されるのが定説になっている。防犯カメラの設置が、犯罪を防止する、または、起きた犯罪の解決を速やかに行う手段として社会の安全のために有用である、という認識が広まるにつれて、ある程度の「プライバシー権」の制約を伴うにしても防犯カメラの設置は容認すべき、というのが常識になってきた。ただ、その濫用を防ぐためには、兵庫県のガイドラインのようなルールの下で運用されることが重要だろう。


【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization