第63回 「脱獄」

世界的には、スマホやスマートタブレット市場での主役は、すでにアンドロイドになっている。OSの機能をアップル社が完全に管理し、融通の利かないiOSに対して、アンドロイドはオープンソースで、必要に応じて機能の追加や斬新なアプリの開発に道が開かれている。スマホやスマートタブレットのアプリの開発者は世界的には創意工夫の余地の大きいアンドロイドに吸い寄せられている。

もちろん、アップルも、魅力的なアプリの開発を促進する仕組みを提供している。「アップストア」である。iOS用のアプリを開発すると、内容を点検し、承認を受けたうえで、アップストアで販売することができる。開発者には、大きな収益を得るチャンスがある。

この厳格な審査のある公認ストアを通じて収益を上げた企業や個人は多数にのぼっている。この仕組みは新しい産業を生み出したともいえる。ユーザーもアップル社の検査を経ているので、安心してアプリを購入できる。厳格に管理された世界である。

一方、自由に創意工夫を加え、新しい機能を盛り込んでゆきたいアプリの開発者やユーザーにとっては、これが窮屈に映るのである。まるで「監獄」というわけで、iOSの優れた機能とハードウェア(デバイス)をベースにしながら、このアップル社のコントロールを抜け出る環境を作ることを「脱獄」と呼んでいる。iOSを改変して制約を取り除き、通常は利用できない機能を使用できるようにする。

「脱獄」の世界のメリットは、アップルが公認していないアプリが使用できる。この分野のユーザーによると、特定の通信会社でしか端末が利用できなかった「SIMロック」を解除して、どこの通信会社でも使える端末に変える、とか、スマホを経由してパソコンをインターネットに接続する「テザリング」を利用できるようにする、とか、画面に表示されるアイコンや壁紙、サウンドなどをアップル非公認のものに自由に入れ替える、などができるようになる。これらはアップル社も機能を追加して利用できるようになる性質のものだが、アップル社が対応する前に自由に利用したいユーザーは「脱獄」を図るのである。

ただ、セキュリティ面で注意しなければならないのは、こうした「脱獄」の世界で利用している機能のせいで端末に異常をきたした場合には、当然ながら、ソフト会社からも通信会社からもサポートを受けられないことである。厳格にアプリを点検する公式ストアを経由していないので、どんなマルウェアやサイバー攻撃の踏み台になるような仕掛けがしてあるアプリを機器に招きこんでしまいかねない。

脆弱性を持つと言われるアンドロイドの場合には、マーケットが大きいのであれこれのセキュリティ対応ソフトが供給されるが、この「脱獄」の世界はマーケットが小さいので、そうしたセキュリティソフトウェアが供給される可能性は小さい。ほとんどないと言ってよいだろう。

好奇心を満たすには「脱獄」の世界も興味を惹かれるかもしれないが、通常のユーザーにはあまりメリットがない。近づかない方が安全である。


【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization