第68回 営業秘密
企業は重要な情報を管理している。
これらの情報が持ち出された際には不正競争防止法によって民事上・刑事上の措置を受けることができる。では、従業員らが企業情報を勝手に外部に持ち出すことは何でも不正であるかというと、そういうわけには行かない。それには条件がある。
企業はそれなりの手続きを踏んでおかなければならない。たとえば、許可なく外部に持ち出してはならない情報であることを従業員に分かるように示しておかなければならない。
経済産業省は「営業秘密管理指針」を作成している(2015年1月に全面改定)が、そこで不正競争防止法によって保護される営業秘密について3つの必要条件を列挙している。
@〔秘密管理性〕企業が秘密として管理すること。
A〔有用性〕生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること。秘密であることによって商業的価値が認められる情報であること。
B〔非公知性〕公然と知られていないもの。他では入手できないもの。個々のデータが公知のものであっても、データの組み合わせや編集によって新しい価値を生み出し、その企業独特の情報になっている。
この三要件全てを満たすことで不正競争防止法の保護を受けることができる。
特に重要なのは、@の秘密管理性だろう。
企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)は抽象的、網羅的ではなく、限定的に詳細に明確化する必要がある。たとえば、従業員にとっては、外部に持ち出すことが不適切な情報が何なのかが認識できる。会社側から「不正を行った」として、従業員が嫌疑を受けることがない安全な範囲が明確になる。予見可能性が高まって、自信をもって行動できる範囲が広がる。
異なる組織間での「情報共有」でも管理する情報の範囲を限定し、明確にすることが重要である。現代においては、「情報共有化」が大きな価値を生み出す。あまりに網羅的に管理する情報を規定すると、経済活動の活性化を阻害する。経済産業省の「指針」では、「営業秘密は、それを保有する企業の内外で組織的に共有され活用されることによってその効用を発揮する。企業によっては国内外の各地で子会社、関連会社、委託先、又は、産学連携によって大学などの研究機関等と営業秘密を共有する必要がある」ため、網羅的に規定するのではなく、「リスクの高低、対策費用の大小も踏まえた効果的かつ効率的な秘密管理の必要がある」と、ケースに応じて限定的に規定すべきだと指摘している。
また、秘密管理性の要件を満たすためには、企業は対象情報を「秘密」として管理する意思を、きちんとした「秘密管理措置」によって従業員等に対して明確に示し、従業員等が対象情報が「秘密」とされていることを容易に認識できるようにしておかなければならない。
その秘密管理措置には、いろいろな方法がある。
書類やファイルに「部外秘」「厳秘」などの刻印をする、鍵をかけて開閉に制限をつけた引き出しやロッカー、専用室などに保管する(合理的区分)、電子情報としてパスワードで管理している、などで、従業員らに「秘密情報」であることを明示できる。また、個人情報保護法によって、顧客情報リストなど個人情報ファイルが流出させてはならない重要情報であることは明らかになっているので、「個人情報保護研修」を定期的に従業員に実施するなどの周知徹底努力をし、個人情報ファイルであることを明示しておけば、秘密管理措置をとっていると言えるが、より、徹底した合理的区分やアクセスコントロールをしておくことが望ましい。
ただ、「事務所内の資料すべて」などのあいまい、網羅的な規定は秘密管理措置としては不適切である。事務所内の資料には必ずしも秘密性のない公知の資料など一般情報が含まれていることが多い。こうした一般情報が混在していると従業員らは秘密指定に対して厳格なものではない、と認識してしまう可能性がある。「秘密管理措置の形骸化」を招く可能性がある。一筋縄では行かない。
「秘密管理措置」については研究する内容が豊富である。個別の案件についての裁判の判例も経済産業省の「指針」には掲載されている。ほとんどのビジネスマンは業務で個人情報に触れる機会が増えている。こうした参考資料をじっくりと読み込んでもらいたい。
【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization
これらの情報が持ち出された際には不正競争防止法によって民事上・刑事上の措置を受けることができる。では、従業員らが企業情報を勝手に外部に持ち出すことは何でも不正であるかというと、そういうわけには行かない。それには条件がある。
企業はそれなりの手続きを踏んでおかなければならない。たとえば、許可なく外部に持ち出してはならない情報であることを従業員に分かるように示しておかなければならない。
経済産業省は「営業秘密管理指針」を作成している(2015年1月に全面改定)が、そこで不正競争防止法によって保護される営業秘密について3つの必要条件を列挙している。
@〔秘密管理性〕企業が秘密として管理すること。
A〔有用性〕生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること。秘密であることによって商業的価値が認められる情報であること。
B〔非公知性〕公然と知られていないもの。他では入手できないもの。個々のデータが公知のものであっても、データの組み合わせや編集によって新しい価値を生み出し、その企業独特の情報になっている。
この三要件全てを満たすことで不正競争防止法の保護を受けることができる。
特に重要なのは、@の秘密管理性だろう。
企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)は抽象的、網羅的ではなく、限定的に詳細に明確化する必要がある。たとえば、従業員にとっては、外部に持ち出すことが不適切な情報が何なのかが認識できる。会社側から「不正を行った」として、従業員が嫌疑を受けることがない安全な範囲が明確になる。予見可能性が高まって、自信をもって行動できる範囲が広がる。
異なる組織間での「情報共有」でも管理する情報の範囲を限定し、明確にすることが重要である。現代においては、「情報共有化」が大きな価値を生み出す。あまりに網羅的に管理する情報を規定すると、経済活動の活性化を阻害する。経済産業省の「指針」では、「営業秘密は、それを保有する企業の内外で組織的に共有され活用されることによってその効用を発揮する。企業によっては国内外の各地で子会社、関連会社、委託先、又は、産学連携によって大学などの研究機関等と営業秘密を共有する必要がある」ため、網羅的に規定するのではなく、「リスクの高低、対策費用の大小も踏まえた効果的かつ効率的な秘密管理の必要がある」と、ケースに応じて限定的に規定すべきだと指摘している。
また、秘密管理性の要件を満たすためには、企業は対象情報を「秘密」として管理する意思を、きちんとした「秘密管理措置」によって従業員等に対して明確に示し、従業員等が対象情報が「秘密」とされていることを容易に認識できるようにしておかなければならない。
その秘密管理措置には、いろいろな方法がある。
書類やファイルに「部外秘」「厳秘」などの刻印をする、鍵をかけて開閉に制限をつけた引き出しやロッカー、専用室などに保管する(合理的区分)、電子情報としてパスワードで管理している、などで、従業員らに「秘密情報」であることを明示できる。また、個人情報保護法によって、顧客情報リストなど個人情報ファイルが流出させてはならない重要情報であることは明らかになっているので、「個人情報保護研修」を定期的に従業員に実施するなどの周知徹底努力をし、個人情報ファイルであることを明示しておけば、秘密管理措置をとっていると言えるが、より、徹底した合理的区分やアクセスコントロールをしておくことが望ましい。
ただ、「事務所内の資料すべて」などのあいまい、網羅的な規定は秘密管理措置としては不適切である。事務所内の資料には必ずしも秘密性のない公知の資料など一般情報が含まれていることが多い。こうした一般情報が混在していると従業員らは秘密指定に対して厳格なものではない、と認識してしまう可能性がある。「秘密管理措置の形骸化」を招く可能性がある。一筋縄では行かない。
「秘密管理措置」については研究する内容が豊富である。個別の案件についての裁判の判例も経済産業省の「指針」には掲載されている。ほとんどのビジネスマンは業務で個人情報に触れる機会が増えている。こうした参考資料をじっくりと読み込んでもらいたい。
【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization