第70回 個人情報保護条例

児童・生徒の非行情報について教育委員会と警察とが協定を結び、情報共有し、協力することによって犯罪の拡散を防止する、という機運は広がっているものの、各地の自治体にある個人情報保護条例によって、まだ、警察との情報共有に慎重な教育委員会も残されている。

文科省の緊急調査によると、全国47の都道府県教育委員会のうち39で警察と協定を結び、締結していないのは8、20政令指定市では14の教育委員会が警察と協定を結び、結んでいないのは6である。理由としては各自治体の個人情報保護条例が阻害しているとみてよい。特に川崎市には個人情報保護条例のほかに、市が独自に定めている「子供の権利条例」が存在し、警察との情報共有を阻害した、と言ってよい。

その個人情報保護条例は、1990年に神奈川県で初めて制定されたといわれるが、地方公共団体が保有する個人情報を適正に取り扱うためのルールを規定したものである。総務省によると、同省が制定を促した結果、2005年には全国の都道府県・市町区村のすべてで個人情報保護条例が制定されたという。特に個人情報保護法が施行されるのに合わせて条例制定を促進したのだが、それ以前に条例を制定していた自治体も、保護法に適合するように一部改定を実施している。

個人情報保護法は保護の基本的枠組み全体を定めているものの、具体的な規定では、主に民間事業者や団体が取り扱う個人情報についてルールを決めている。民間以外の分野での具体的な規定は、「国の行政機関」「独立行政法人等」を法律で決め、「地方公共団体等」については条例で定める体系になっている。個人情報保護法の制定に伴って、総務省は地方公共団体にその条例の制定を促してきたのである。端的にいえば、地方自治体やそこに従事する公務員や準公務員を対象にしたルールである。

全国の保護条例は、先鞭をつけた神奈川県の例にならって、審議会の設置など厳重な手続きを課しているケースが多い。このため、情報保護が徹底する一方、逆に、過剰な保護によって、情報流通による行政事務の効率化が実現できず、不合理な行政体系が大規模に残存している、という指摘もなされている。特に、オンライン結合を条例で禁止している自治体が多いのはビッグデータ時代にそぐわない。「匿名性を確保した上での第三者利用」というビッグデータ時代の新しい個人情報保護法の方向があるにもかかわらず、社会・経済資源として重要な行政データが「オンライン結合原則禁止」の条例によって活用できない恐れがある。保護法改正の議論の中で、保護条例の全面的な見直しが必要である、という主張も一部で強まっている。

個人情報保護条例が、情報保護に過剰に傾いている傾向があるのは、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を実施するにあたって、総務省が一部の国会議員や世論に押され、妥協した一面があったことは否定できない。住民情報を直接、取り扱う地方自治体や職員たちに厳しいルールを課して、住基ネットの安全性を保証した。その結果、住民データを流通させることによって生まれる利便性を犠牲にしたといえる。その条例が残っていることについては、もう一度、議論する余地があるという声も無視できない。


【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization