第76回 マイナンバー制度を取り扱う個人番号関係事務

政府が発行する「マイナンバーガイドライン(事業者編)」では「個人番号(マイナンバー)関係事務」を図示して説明している。企業がマイナンバーをどう扱うのか、簡潔に理解できる。

まず、事業主が行うべき作業は、行政機関等に提出する書類に付けることが義務付けられるマイナンバーを収集することである。収集する対象は、経営者や従業員、株主、有識者(講演や原稿などを依頼する人)等、給与や報酬、謝金、配当などを支払う相手である。社会保障関係では、従業員の厚生年金や健康保険組合の加入、脱退などの届け出や年金などの保険料の徴収などの書類提出にマイナンバーが必要なので、これの個人にマイナンバーの提示を要請する。給与、報酬や保険料の届け出を行うので、従業員とは、正社員、契約社員、アルバイトなどすべてである。

個人情報保護法に基づく「個人情報取扱事業者」は中小・零細事業者は一定の数未満の個人情報しか扱わなければ除外されたが、マイナンバーは、1人でも給与を支払う従業員がいれば、対象事業所になる。こうした事業所は日本全国でおよそ400万も存在すると言われる。

次いで、企業は「個人番号関係事務実施者」として、指定された書類にマイナンバーを付して行政機関等に提出する。マイナンバーを付けることを義務付けられるのは、法定調書(源泉徴収票、支払調書等)、健康保険・厚生年金保険、被保険者資格取得届などである。経営者や従業員、株主、有識者(講演や原稿などを依頼する人)等のマイナンバーを記載して、税務署や市区町村、ハローワーク、年金事務所、健康保険組合などの行政機関等に提出する。この業務は社会保険労務士や同事務所などの外部に委託できるが、委託を受けた事務所や社会保険労務士も「個人番号関係事務実施者」として作業を行う。

注意しなければならないのは、マイナンバーはこうした税と保険、年金など、マイナンバー法で明記されている事務に利用するだけで、そのほかの目的で集めることも転用することも禁止されている。企業内では、マイナンバーを営業成績の管理や出退勤の管理などに利用することは違法である。また、顧客に対しても、たとえば、レンタルビデオ店の窓口係が、入会申し込み者に住所、氏名、年齢などを証明するマイナンバーカードの提示を求め、ついでに裏面に記載されているマイナンバーまで聞いて収集するというようなことは違法である。

正確な知識を持たずに、うっかりマイナンバーを違法に取り扱ってしまうことがないように、企業は従業員に教育、研修を行って十分な知識を備えさせることが必要である。また、マイナンバーを取り扱う担当者を絞り込んで、適切な扱いがなされるように組織的な体制を作って置くことも必要である。

一方、マイナンバーを付した書類が届けられる税務署、ハローワーク、年金事務所などの機関は、「個人番号利用事務実施者」として業務に当たる。マイナンバーを付けた源泉徴収表や各種届出を受けた諸機関は、社会保障、税及び災害対策に限定した事務においてのみ、マイナンバーを利用する。事務に必要な個人情報の検索、管理のためにマイナンバーを利用して、行政の効率化を図ることになる。


【筆者=JAPiCO理事長 中島洋】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization