第80回 マイナンバー、医療分野利用に拡大

医療分野でのマイナンバーの導入について、5月29日の産業競争力会議で厚生労働省は医療分野への番号制度の導入方針を表明したという。安倍晋三首相は同会議の席上で医療分野でマイナンバーを導入するということは、「重複検査や重複投薬から解放され、一貫した医療・介護サービスが受けられる」と国民の医療の質の向上や無駄な医療費の排除などに役立つことを強調している。

しかし、医療費の削減というのは、逆サイドでは、医療業界の収入減少につながる。結果として、病院や開業医などの収入減につながるかもしれないという不安を広げかねない。この点では患者の側では、過剰な投薬などで必要以上の医療費負担をさせられているのではないかという医療不信があって、安倍首相の発言もこうした患者サイドの疑問を背景にしたものと言えるが、そうであれば、医療業界としては収入確保のためには、マイナンバーの導入は望ましくない状況である。

今回のマイナンバー制度の導入の目的として行政側では、「不公平の是正」という言葉が発せられる。安倍首相が言う「重複検査や重複投薬」は、医療機関が意図したものではないかもしれないが、患者側にとっては検査や投薬について、医療機関を変えるたびに起こる現象として疑問を感じさせるものだった。医療不信を起こす原因の一つだったかもしれない。

もしそうであるとすれば、大半の医療機関ではそうではないが、一部の医療機関にとってマイナンバーでそうした状況が変更されることは、決して愉快な話ではないかもしれない。制度変更に抵抗することになるかもしれない。

さらに、医療業界の抵抗を緩和するために、マイナンバーを直接、医療分野に導入するのではなく、「新制度ではカルテやレセプトを管理するための医療番号を新たに作る」ということである。その医療番号を中継センターを通じて、マイナンバーと結合することができる。恒常的にではなく、目的を限定して、その目的だけに連動させられる。医療番号を使って、マイナンバー経由で、医療機関や薬局、介護事業者らが情報を共有できるようにする、という間接的な使用で個人情報が目的以外に利用されないようにできる。

このマイナンバー利用によって集積された医療データはビッグデータといての効用が期待されている。「マイナンバー制度を通じて集まった病気や治療に関する医療情報は匿名にして、いわゆるビッグデータとしても活用する」ことになるだろう。「製薬企業や大学に開放し、新薬開発などに生かす。政府は幅広い治療結果のデータを分析して、効果的な治療に役立てる。無駄な検査や投薬が見つけやすくなるため医療費削減につながると期待される」というわけで、直接的な医療機関での医療費削減ではなく、医療技術向上による治療効果や投薬効果の向上で投薬コストを削減できると期待されている。


【 筆者=JAPiCO理事長 中島洋 】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization