第84回 困難が予想されるマイナンバーの取得

前回に詳述したように、マイナンバーカードは「なりすまし」を防ぐ本人確認の有力な手段である。券面に顔写真と基本情報、裏面に12桁のマイナンバーが記載される。顔写真とマイナンバーが一枚のカードに記載されているので、その番号が本人のものであることを確認できる。マイナンバーカードを持っていない場合には、今年10月から本人宛に送付される番号通知カードか住民票の写しに記載される個人番号と、顔写真が記載されている身分証明証を同時に提示し、顔写真で本人確認しながら番号を取得する。

手順を記せば簡単だが、実際の取得作業は場合によっては困難を伴う。まず、企業は従業員に支払った給与についての源泉徴収票や支払調書を税務署に提出する際に必要なので従業員の個人番号を取得する必要がある。年金や各種保険の書類の提出も同様である。通常の経営者と従業員の関係ならば、従業員は指示通りに本人確認作業をしながら個人番号を提示するだろう。

しかし、トラブルを抱えた従業員が個人番号の確認を回避する行動に出た場合にどうするか。また、年度途中に職場との関係を悪化させて退職して、連絡が取れなくなったら、どうするか。扶養家族の控除手続きのために、従業員の扶養家族の個人番号の取得が必要になるが、家族にトラブルを抱えている従業員から確実に扶養家族全員の個人番号を集めることができるのか。こういう事態の場合に、企業はどういう措置をすればよいのか。

マイナンバーを取得しなければならないのは、従業員だけではない。
配当を行えば、支払先の株主の個人番号を取得しなければならない。セミナー講師や機関誌などへの原稿執筆の謝礼支払いにも、税務当局への支払調書などの提出に支払先個人番号の記載が必要になるが、どの時点で本人確認の上に個人番号を取得するのか。税務当局への届け出の際に気がついて、謝礼支払い先に個人番号を問い合わせる、ということは簡単ではない。遠隔地にいれば、本人のところに出向いて対面の上に確認するというわけにもゆかない。仮に、電話や郵便物で問い合わせても、その問い合わせが本物であるかどうか疑わしいので、相手は簡単に応じてくれないだろう。

もし、相手が信頼して個人番号を伝えてきても、それが本人の番号であるかどうかの本人確認をどのようにするのか。個人番号を間違えて伝えてくるかもしれない。故意に誤った番号を伝えてくる可能性もないとは言えない。正確に取得する、というのは、想像以上に難しいケースが多い。セミナー講師の場合には、現場に本人が来るので、マイナンバーカードや証明証の顔写真での本人確認の上に番号を取得することができるが、原稿執筆などは、現在ではインターネットで原稿を依頼し、インターネット経由の原稿送信するという形態が増えているので、原稿依頼者と執筆者が直接に対面する機会は少なくなっている。

どうやって、本人確認、個人番号が誤っていないことを確認すればよいのか。謝礼の支払い方法と本人確認作業などに工夫が必要になるのではないか。

行政の側から、具体的な方法の指示が欲しい。それを急いで検討しておかなければならないだろう。

さらに顔写真を本人確認手段としてとしているが、これが万全でないのは周知の通りである。できるだけ早く指紋認証など、もっと確実性の高い生体認証を採用する必要があるだろうが、現段階ではコスト面から全面的な採用は難しい。本人を確認して正しい個人番号を取得する、というのは、考えれば考えるほど、簡単ではない、という気がしてくる。


【 筆者=JAPiCO理事長 中島洋 】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization