第97回 マイナンバーによる行政改革の候補

マイナンバーは電子行政による大規模な行政業務改革への踏み切り板である。踏み切り板を蹴った先にはどんな行政業務の変化が待っているのだろうか。実現の可能性のある制度の変化をいくつか紹介してみる。法改正等、必要な手続きは残されているが。

◆所得税申告の変更。マイナンバーで個人の所得が徴税担当側で補足できるので、徴税側で所得を計算した「記入済み申告書」納税者に届き、納税者は経費などを書き込んで個人で申告する。現在は給与所得者は勤務先の経理担当者が計算して徴税業務を代行しているがその必要がなくなる。当然、年末調整の計算業務からも解放される。企業にとっては大きな負担軽減である。給与所得以外に所得があると現在は確定申告をするが、これは非常に面倒な作業である。「記入済み申告書」が来れば個人の作業も楽になる。後は経費を追記すれば納税額は自動計算される。マイナ・ポータルがその情報の受け渡し窓口になる。

◆資格者への確実な給付金の支給。今回の消費税軽減方法をめぐる騒ぎのようなことを回避する。上記の仕組みを利用すれば、給付金の条件を満たす人には税額控除を記載した「記入済み申告書」が届けられる。消費税の還付以外にも給付案件ではこの方法がとれる。

◆戸籍制度を廃止しできる。マイナンバーを利用した「家族関係登録制度」を新設する。現行制度で戸籍を必須とするのは相続時に家族関係を確認することである。家族関係が特定できれば、膨大な戸籍情報は不要になる。

◆国勢調査も究極は不要に。5 年に一度の国勢調査が今年の10 月に実施されたが、マイナンバーで基本4情報が把握され、その他の統計データを活用すれば、国勢調査と同水準の情報を得ることは可能である。5年に一度どころか毎年でもできるし、その結果も短期間でまとめられる。

◆預金口座・証券・保険の所有者・相続者の明確化によって、調査業務が大幅に削減できる。相続が発生した際に上記のマイナンバーに基づく「家族関係登録制度」ができていれば、金融財産の把握がスムーズになって相続税の適正な徴収が可能になる。

◆休眠口座の特定と活用。金融資産にマイナンバーを付けることで、休眠口座が明確になる。現在は金融機関の資産になっているが、本来、これは公共のものであるので、税と同等のものとして国庫に入れるべきである。

◆行政サービスにおける対面手続きの撤廃。マイナ・ポータルによる行政手続きの範囲の拡大やマイナンバーカードを利用するコンビニ複合端末の行政サービスへの利用の促進などで、役所の窓口に来て行う手続きが大幅に削減する。

このほかにも、現在、自治体職員が汗を流して格闘している業務の多くが電子的処理が普及することによってなくすことができる。自治体職員は書類と格闘して効率の悪い働き方を改める好機である。職員数のゆとりが出てきたところで、住民にとって価値のあるサービスを創設し、職員不足で十分にできなかったサービスを拡充してゆくチャンスになる。


【 筆者=JAPiCO理事長 中島洋 】
*本コラムは、個人情報管理士、認証企業・団体サポートの一環として配信されている「JAPiCO」メールマガジンからの抜粋です。
*Japan Foundation for Private Information Conservation Organization